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S**O
PMBOKで決して語られることのない、ソフトスキルについて豊富に教示してくれる素晴らしい本。プログラムマネジャーでなくても部門長ならば読むべき本
最近プログラムマネジメントという言葉も一般的になってきたが、プログラムマネジメントとは、なんとなく、「複数のプロジェクトを束ねたもの」としか理解していない人が大半だと思う。まずは明快にプログラムの定義をしてくれたところがすっきりとした。つまり、ポートフォリオの下に直接複数のプロジェクトがぶら下がる場合もあれば、複数のプログラムがぶらさがる場合もある。一つのプログラムの下には複数のプロジェクトがぶら下がるだけでなく、運用業務もぶら下がる。さらに本書は多くの実用的な方法や心がけについても知見を与えてくれる。例えば今の時代判断の正しさも大事だが、「判断の速さ」が大きく問われる時代でもしも、4つの判断のうち3つ正しい判断をしていれば「優秀」であるという。これは銀行を筆頭にする「一回の失敗で左遷」的な日本企業文化が最も必要とするカルチャーではないかと思うし、カルチャーを作るというのがプログラムマネジャーに課せられた責任だという。PMBOKなどの正式な知識体系だけを頼りにしない、所謂「ソフトスキル」と言われるテクニックも数多く述べられているのが素晴らしく、例えばステークホルダーマネージメントにおいては、正式なレポートラインにはいないけれど、実はビジネスリーダーが頼りにしている人を見つけ出すということは私の経験から言っても非常に重要である。もっとも注意すべきステークホルダーは、プログラムに対して快く思っていない人たちで、彼らのパワー(権力)は、彼らのネガティブな思いに「掛け算」で効いてくるというのも「あるある」の一つだ。重要なステークホルダーなほど超多忙でつかまらず、資料を送っても読まず、最後に出てきたと思っては反対意見の爆弾を落とすということも多い。そういう相手にはDelegationの人間を立ててもらうとか、定例ミーティングにしてスケジュールをおさえるとか、待ち伏せしてでもつかまえる。バッドニュースは大きなミーティングで伝えてしまうと大げさに怒られてしまうが、事前にバッタリ会ったかのように見せかけて事前にこそっと伝える(Whispering)と相手も心の準備ができるというのは面白い。重要なステークホルダーをほったらかしにすることは[振られた女」と同じほど怖いという。プログラムマネジメントを実行するためのプロセスについても非常に面白い考察をしている。私が前に勤めていた巨大グローバル企業ではプロセスを設立することを非常に重要に考えていた。「Process is your friend」という人もいた。ただし、本書が言うようにプロセスでがんじがらめにするとお役所仕事が増え、かえって非効率になってしまうことが多かった。あえて属人的な部分も残すこともフレキシビリティの意味で重要だという。ただ、多くの日本企業の「鶴の一声」は時には誤った結果を生み出すのが要注意だ。スコープクリープもプログラムマネジャーを悩ませる一つだ。本書は、「Requirement」という言葉は使うなという。これを言ってしまうと「やらねばならない」という空気を作ってしまうからだ。その代わりにまだ正式にスコープに入っていないものを「Preliminary Requirement」、正式に合意されたものを「Baseline Requirement」ということで、ステークホルダー達もなんとなくスコープマネジメントについての理解がついてくるという。さらにすべてのリクエストにはフォームに記入させて正式なプロセスを通すことも「すぐには受けられません」ということを理解させるのに重要だ。これは私の経験上特に営業システムなど毎日新しい要件が飛んでくるときにうまく彼らの期待をコントロールするのに役立った記憶がある。プログラムチームをコーチングする場としてステータスミーティングが重要というのは何となくやっていたけど改めて言われてみるとそうだなと思った。ステータスレポートは1ページで表現すべきというはその通りなのだが、単に1ページでおさめろというと、みんな8ポイントとかの文字で押し込むのでいかに簡潔に伝えるかというのもコーチングに手間がかかるところ。ステータスレポートを見た人がパッとどこが変わったのかがわかるように、一か月以内のアップデートは太字で書けと。自分がやったときは敢えて小さな「New!」という画像を貼り付けた。一番重要なのがHelp Needed。ステークホルダーはステータスレポートを見ると(見てくれるだけマシ)、「オレ何かやらんとあかんかな?」と考え、パッと見て「関係ないか」とメールを既読にしてしまう。だからこそ、超明確に書かないといけない。めちゃくちゃスゴイと思ったのが、プログラムの報告会の時、自分がプレゼンする内容は完璧に理解しておかないといけない。ちょっとでも質問に答えられずに言葉に詰まると、そのとたんにいままで眠そうな顔をしていた人までもが突然質問をしはじめる。これは人間の意地の悪さというか、信用できないと思って急に心配になるというか、こういうことを書いた本はいままでなかった。チェンジマネジメントに関しては、変更が必要なことを説得するのは大変で、あえて第三者を呼んできて説明してもらう(自分の息子にいくら説得しても聞いてくれないが、自分と同じことをサッカープレイヤーが言うと、息子は「すごい!」と一気に納得する)。またいわゆる「腹落ち」というのはいくらWhatを説明しても無理でHowがわからないとダメだというのもその通り。変更をすることが決定すると昔のやり方と決別するために、古いコンピューターをみんなの前で焼いて「火葬」にするという儀式で意識改革を成し遂げるという例もすごいと思った。プロジェクトを成功させるのが今ほど難しい時代はないと思う。簡単なことはやりつくし、全てが複雑で変化が速く、関係する人は多部門にわたる。だからこそ、プロジェクトをスタートするかどうかには厳しい目が必要だという。ビジネスパートナーは何のプロセスを改革するかわかってますか?プロセスのどこをどう変えるのか、何がKPIで、いまはどういう状態で、それがどう変わるか知っていますか?もしすべての質問がYesでなければ、プロジェクトは止めるべきだという。プロジェクトを止めることは始めるよりも難しいがこれは本当にこころがけるべきだ。
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